***





「クリスマスって、そんなに悪いもんじゃァないな」

 ――子供の頃には、好きなもんでもなかったんだが。
 恋人の首筋に顔を埋めて、辰史はぼんやりと語りかけた。目を瞑る。腕の中の体温だけで、強く存在を感じることができる。この距離は、自分だけのものだ。他の誰が知ることもない。そんな独占欲と幸福感に溺れながら、恋人の反応を待つ。

「どうしてですか?」

 律儀に、比奈が訊いてくる。耳に心地の良い声に、また目を開きながら、辰史は答えた。上目遣いに彼女を見つめて、

「幾つん時だったかな。兄貴が、サンタは親父だってばらしやがった」
「はあ」
「親父とは昔っから仲良くなかったからな。毎年親父からプレゼント貰って喜んでた自分がすげえ間抜けなように思えて、それからは毎年いらねえって突っぱねてたわけだ。兄貴や姉貴が欲しいもん貰うのを内心羨ましく思いながら、な」
「その頃から素直じゃなかったんですね」

 髪を梳く比奈の手が優しい。辰史は、猫のように喉を鳴らしながら「そうだな」と瞳を微笑ませ――ふと気付いて首を小さく左右に振った。

「いや。その頃は、だ」
「と、言うと?」
「今は随分、素直だろ?」

 言って、にぃっと唇をつり上げる。恋人は確かに、と頷いて甘い微笑を浮かべた。







END

---------------------

兄姉に対する幼い嫉妬が、絵の中のサンタとトナカイの姿を借りていたんですよという話。
絵のことを思い出して処分しようと時計を取り寄せたのに、舞い上がってすっかり忘れてしまった辰史さんなのでした。という。どうしようもない話ですみませんでした。
長々と読んでくださってありがとうございました!