先生から教室の荷物を片付けろと言われていたのを忘れていた訳じゃないんだ。勿論計画的に持って帰ろうと思っていた。
 けれど練習の後に自主練をして帰りが遅くなった日には重い荷物を持ち帰るのが億劫で、学校の体育館が使えない日はよその体育館に行くからやっぱり大荷物を持ち運びたくなくて。
 ついに明日が高校入試という今日まで来てしまった。俺としたことが、シブくねェ。
「え、先輩それ今日全部持って帰るの?」
「う、なんで居んだよ」
 教室を試験会場として使うため、机の中などに置いている私物は全撤去。残っているものは回収され、後から受け取ろうとすると他人のものと混ざっていて面倒な目に遇う。どうして知っているかというと、去年後町がやらかしていたからだ。俺はそんな面倒ごめんだ。
「そりゃ居るでしょ、生徒玄関だし……なんか持ってあげましょーか?」
 台詞だけ見れば善意を感じるが、万里はやや目を細めて口角を上げ、頬に立てた人差し指を寄せている。明らかに煽りが入っている。
「断る!こんくらい屁でもねェ」
「ふーん……あ、家じゃなく部室に置くんだ?」
 万里が立てていた指先で俺を指す。気まずい。別に後ろめたい事をしている訳ではないが、言い当てられると咄嗟に言葉が出てこない。
「いいなー部室があって」
「まあな!」
 玄関を通り越して部室へ足を向けると、万里は当然のように着いてくる。そうだろうなと思ってはいたので、特に追求しない。
「もう全部持って帰ったのかよ、後輩」
「当然。計画的にやったもん」
 そう言ってスクバを軽く叩く。いつもよりも張っていて、荷物が多いのだろうということが分かった。
「本当に忘れてるもの無いか?後町が去年ノート忘れててよ」
 あ、そういや当たり前だけど。
「去年ってお前受験だったのか」
「え?そりゃそうでしょ一年生だし」
 当たり前のように万里は言うけれど、俺はちょっと新鮮な驚きがあってまばたきをすることしかできない。あの時小猿みたいなこいつと出会ってから、一年経っているのか。
「もしかして妹の次はおねーちゃんだと思ってる?」
「思ってねーよ。一年経つのかと思ってな」
 両脇に抱える荷物のバランスが少しずれたので、整えるために前を向く。もう一年なのか、まだ一年なのか、どちらも正しい気がしてならない。
「エモくなってるんだ。万里と出会えて良かったね」
「まあ、そうかもな」
 間違いなく言えるのは、こいつはいつだって健気なほどに可愛い後輩でいようと努力していることだ。その人知れない努力は、シブい、とは少し違う言葉で言い表すことができるのだろう。咄嗟に全く思いつかないが。
「お前って受験勉強したのか?」
「馬鹿にしてる?」
 どやどやと話しながら、ようやく部室に辿り着く。戸を開けようとしたとき、中から何やら声がすることに気付く。
「おい、何やってんだ」
「お!有村もか!いや参った!」
「もう場所無いぞ」
 狭くないはずの部室には所せましと教科書、ノート、漫画(持ち込み禁止じゃなかったか?)などなど積まれていて、足の踏み場を探すのがやっとだ。本田と早乙女がどうにか教科書を置こうとタワーを建てている。
「マジかよ……シブくねえな……」
 そうは言っても俺だって部室に置いておきたい。確かにここらは地元だが、持って帰る距離としては寮の奴らより遠い。そこそこの距離を両手いっぱいの荷物のまま移動したくない。
 万里と目を合わせる。どうしよう。まあ、どうにかするしかないか。二人で同じようなことを考えて、俺は部室に踏み入れる。
「畜生捩じ込んでやる、俺は間合いは得意なんだよ」
「それってモノ相手でも通用するのか!便利だな!」
 どうにか荷物を置くことはできたが、入試日を挟んで次に登校した時、どういう訳かタワーが倒れまくっていた。お陰でどれが誰のものなのか仕分けるのが面倒だったし、あと監督にそこそこ怒られた。競技関係ないマジ説教、結構怖いな。
「いい一年生入ってくるといいね、せーんぱい」
「そうだな」
 お前も結構いい一年だぜ、とは調子に乗るから言わないでおく。






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