赤の妄執
「師父、ねえ」
師父、師父、師父。
「流石に面白くはないかな。嫉妬する質でもないんだけど」
秋寅は小さく鼻を鳴らして、眠る妹弟子の顔を眺めた。起きているときは困った顔をしていることが多い彼女だが、寝顔だけはいつも穏やかだ。もしかしたら、師父の夢でも見ているのかもしれない。師父に対する妹弟子の執着を見るたび、血の繋がりはなくとも確かに彼らは家族だったのだと痛感する。いや、痛みはないか。胸に手を当てて思い当たるのは、やはり自分は異物だったのだという自覚だけだ。妹弟子へのすまなさこそあるものの、秋寅自身は師父に想いを馳せることはない。店を潰したことも後悔していない。
「そんな繊細だったらさ、三輪家の長男なんてやってらんないよ」
姉さんみたいになってしまう。
なんとはなしに姉の顔を思い出しながら呟いて、かぶりを振る。姉のことは駄目だ。聖夜に思い出すような人ではない。代わりに、湖藍の顔を眺める。
出会ったばかりの頃はまだ子供だった妹弟子も、もう随分と大きくなった――なんやかんやと理由を付けてはこうしてベッドにもぐり込んでくるあたり、中身はそれほど変わっていないのかもしれないが。
「ねえ、小藍。俺はそんなに酷い師兄かな? 自分では、結構優しい方だと思ってるんだけど。小藍がそうじゃないって思うのなら、違うのかもしれないな。君のためを思えば改めてあげたいところだけど、やっぱり俺には分からないのさ」
恨み言ばかりを言う甘えたがりな妹弟子の前髪を指先でそっと掻き上げて、秋寅はその額に一つキスを落とした。
END.