幸福を孕む

 神など信じておらんくせに復活祭を祝うのか、って?
 まあ、今更だよね。そんなこと言ったらバレンタインもクリスマスも祝えないし。つまり理由が必要なんだって話。
 なんでもない日にいちゃいちゃしよって、言う方も言われる方もハードル高いじゃん。だから、こういうの――大義名分って言うんだっけ。せっかくのイースターだから、イースターバニーにあやかってえっちな兎のカッコしよっか。なんて、それだけでちょっとドキっとするでしょ。しない?
「確かに復活祭の兎は豊穣の象徴らしいが……」
 素知らぬ顔で言って、おなかのあたりをするりと撫でる。優しいような、くすぐったいような、そっけないような、そんな手つきで。
「そういうとこやらしいよね、影二は」
 ちょっと落ち着かなくって、恥ずかしくて、早口になるわたしに否定しないで少し笑うようなとこも含めて、さ。
「そのための建前ではなかったのか」
「まあ、そうなんだけど」
 唇の端に掠めるだけのキス。コッチがもっとってねだるのを待ってるんだから、ずるいよね。こういう駆け引きで影二に勝てたためしのないわたしは、やっぱり素直に影二の唇を追ってちゅーするしかないんだ。
 それでやっと、仕方がないやつって言わんばかりに――これも建前かな。うん。舌の先っぽで唇を割って。ほんと、手も足もでないくらい心得てるんだよ。影二ってば。
 ――影二。
 胸の中で何度だって名前を呼びながら、いつもよりチョットだけ積極的に舌を絡めた。「お前は欲しがりなくせに、いつまで経ってもこういった手合いに慣れんな」って、前に影二が言ったことを思い出したから。驚いたような影二の目が、淫らなのはどちらだって言ってる。
「……仕方ないじゃん。今日は、兎の気分なんだから」
 キスの合間。息継ぎと一緒に小声で囁いて、うん、そう、これも建前。建前なのかな。頭、ぐるぐるしてきて、よく分からないけど――いつだって、本音はひとつだけ。
「影二、好き」
「……もうひと声」
 え、なにそれ。新しいね?
「大好き」
「惜しい」
「愛してるよ」
 誰よりも、なによりも。
 耳元でこっそり付け加える。
 結構恥ずかしいこと言ったのにさ、影二ってば当然って顔で鼻を鳴らすから。わたしにもなにか言うことないの?って訊き返したら――お前だけだ。なんて、もう。
「だったら、寂しがる暇もないくらい愉しいことしよ」
 もう一度だけ、復活祭にかこつけて誘ってみる。今度は、影二も笑いながら頷いた。






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