エゴイズムばかりが多すぎる



 切なげなお前の声に、わずかでも応えてやれたのならいい。

 如月影二は頭を抱えていた――と言えば、あの生意気な草薙流の継承者はザマァミロと舌を出してみせるのだろうし、元チームメイトも日頃の行いだとせせら笑うのだろう。
(……我ながらろくな知り合いがおらんな)
 溜息をひとつ。
 とはいえそれに関しては、今更嘆くようなことでもない。逆の立場であればおのれとて同じように笑っていたに違いない。深刻ぶって他人に助けを求めるような話でもない。
 些細な揉め事だ。それも、犬も食わない男女間の。
 恋人――と、あらためて呼ぶのはなんとなく憚られる。だが、他に言いようもない――つまりはユナ・ナンシィ・オーエンとのホワイトデーを発端にした痴話喧嘩だった。
 部屋の隅で膝を抱えているユナを、ちらりと見る。
 普段なら様子を窺うまでもなく先に折れる彼女が、膝の間に顔を埋めたままぴくりとも動かない。息をしているのだろうかと探ってしまうのは癖のようなものだ。その肩が控えめに上下しているのを確認して、密かに息を吐く。
(さて、どうしたものか)
 忍び装束の上から、懐に隠した小箱を撫でてひとりごちる。
 他の女と買い物に興じている姿を見られた。
 事実を事実として述べるとそういうことになる。たとえばそれがバレンタインデーにユナから贈られた愛情に対する返礼選びでしかなかったとしても。至極冷静に事情を訊ねてきた彼女に対して、こちらがカッとなってしまったのが悪かった。分かっている。分かってはいるのだ。
(おそらく、もう五分もすれば……)
 この空気に耐えかねた――あるいは諦めたユナの方から、謝ってくる。いつものことだ。予想がついてしまうだけに、考えると胸が塞いだ。こんな日にまでなにをやっているのだと唇の端に自嘲を浮かべながら、もう一度だけ息を吐く。
 ユナが顔を上げるより早く、後ろからその背に触れた。
「ユナ。ユナ・ナンシィ・オーエン」
 頼りなげに震える、彼女の臆病さを愛している。
「拙者は、いつまで怒り続ければいい」
「知らないよ。影二、いつも勝手に怒るし」
「それはお前が――」
 堂々巡りになりそうなことに気付いて、かぶりを振る。
「もうそろそろ自惚れてくれても良さそうなものなのだがな」
「……自惚れる要素がないじゃん?」
 肩越しに振り返ってくるユナに、影二は額をすり寄せた。
「相手がお前でなかったら、こんなにも狼狽するものか」






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