「んっ……ふ……」
 湯に浮いた万里が背をしならせる。弓なりに。そのたびにあたりに漂う泡が揺れ、下着のように彼女の体を隠すのだが。それを手の甲ではらう。まっさらな裸体にようやく満足して、突き入れた。
 ――0.01ミリの壁がないだけでこんなにも違う。
 焦らされすぎた万里がきゅうきゅうと締め付けてくるのも相まって、それだけで達してしまいそうだった。ちょっと、待て、おい、力を「ゆるめてくれ、すこし」恰好がつかないなと思いながらどうにか告げて、万里の太ももを軽く二度叩く。
 幼馴染はまったく聞こえていない様子で、それどころか自分が溺れそうになっていることにすら気づいていない。慌てて両手を引いてやると、また深く打ち付けてしまって互いに呻いた――馬鹿だ。繋がったまま身じろぎもできず、硬直。荒い息遣いだけが浴室の壁に反響する。
「浩くんの、で、おなか、いっぱい――」
「おまえ、こういうときにそういうことを」
「言わないと余計にくるしいんだもん」
「俺は言われると余計に苦しい……おい、それ、やめてくれ。締め付けたり、ゆるめたり」
「どうやってやめるのかわかんない」
「って言っても、ひとりでシてたんだろ。おまえ」
「してた、けど! 中になんて挿れるわけ、ないじゃん……」
 それを今言うのか。
 という心地で。片桐は幼馴染を見つめた。
 その両腕を掴む片桐の手と下腹部に打ち込まれた楔とで、ようやく浮いている。そんな有様だ。どれかひとつでも離せば沈んでいってしまいそうな危うさを伴ってもいる。肩で息をするたびに、重たげな双丘がゆらゆらと湯の上で跳ねて――ああ、そんなに煽るなと言いたくもなる。
「わかった。一度出す」
「抜くの?」
 どこか安堵したような、でなければ寂しそうな万里にかぶりを振って。
「言ったろ。出す」
 腰を押し付けた。締め付けてくる襞を押し開くように奥へ奥へ進む。
「まっ、そこ……!」
 ようやく着いた。もうひとつの入口だ。
 制止とは裏腹に、そこはほしいほしいと吸い付いてくる。
(万里の……)
 おねだりには弱いのだ。
 だからと言い訳をするつもりはないが。ねだられるままに吐き出した。体の内側を灼く熱に、喘ぐ万里の唇を唇で塞いだ。吐精したまま、マーキングをする獣さながらに猶も打ち付ける。
「でてる、でてるから……かき混ぜたらやだぁ……」
 息継ぎの合間、切れ切れの抗議はいつもどおり無視した。
 股の間で泡だった重たげな蜜が、ボディソープの作った泡をどろどろに溶かしていく。
「せっかく、おふろはいったのに……」
「こうなること、分からなかったのか。本当に?」
「…………」
 考える。ふりをしただけだろう、おそらくは。
「……いじわる」
「今日はそればかりだな」
 呟く幼馴染に苦笑で返す。
 彼女は。万里は。
「だってね、いじわるな浩くんのことも大好きなの。わたし」
 照れたように呟いて――両手で顔を隠すこともできず、汚れた湯の中にもぐることもできず、どうしようもなく顔を赤くしている。今更恥ずかしくなってしまって、片桐も額を押さえた。
「万里……お前、それは卑怯だ」
「浩くんの方がもっとずっと狡いくせに」
「……ああ」
 そうだ。そうだな。
 否定はせずに頷いて、まだぐったりしている万里の体を抱き寄せる。抵抗はなかった。
「一度出すって言ったもんね」
 亀頭をゆるゆる撫でる。その手つきは優しい。
「二度目、いいよ」
 彼女がそう言い終える頃には、そこも熱を取り戻していた。
 今度はゆっくり挿入する。一度達して敏感になった万里の中は、また酷く締め付けてきそうな気配もあったが。万里は浅い呼吸を何度か繰り返すと、どうにかそこを緩めたようだった。
 その拍子に――でなければ雄に掻き出されてか――繋がった場所から、先の余韻が流れ出る。どちらかといえば、そちらの方がよっぽどどうにかなってしまいそうな光景ではあった。
 それでもどうにか、理性的に、奥まで押し入って。
「はいった、ぞ」
 告げる。
「うん。ここまではいってる」
 万里が腹のあたりを撫でた。愛おしそうに。
「言ってみたかったの。きゅんとした?」
「ああ」
「って顔じゃないけど」
「余裕がないんだ。察してくれ」
「わたしは酷くされてもいいけど」
「お前また、そういうことを……」
 そんな軽口をたたき合う余裕も、多少はできた。
 互いに顔を見合わせて笑う。繋がったまま――今度こそ意図的だろう――甘く締め付けたり緩めたりを繰り返してくる挑発的な幼馴染の薄い腹を、片桐は仕返しとばかりに軽く押した。
 ここまではいってる。彼女自身が、そう申告した。自分のものが入っている、その場所を。
「それ、きもち……!」
「ようやく素直になったな」
「わたし、いつでもすなおじゃない?」
 言い返してくる万里はまだ余裕がありそうだった。
「確かに、それもそうか」
 認めると、片桐は慎重に腰を動かしはじめた。
 酷くしてなんて冗談でも言えないくらい、万里の弱いところを探り尽くしてやるつもりだった。ストロベリーの甘い香りはいつしか消え、浴室には男女の濃密な匂いだけが満ちていた。

 ◇◇◇

 浴室の床を水滴が勢いよく流れていく。ザーッと、まるで激しい雨のように。
 その音が、相馬万里は好きだった。湯を張り替えた浴槽にぐったりもたれかかりながら、音に耳を傾ける。体を洗う男を眺める。そう大柄なわけでもないが、がっちりとした筋肉の付いた美しい体だ。羨ましいほどだった。いかにも女ですと言わんばかりの自分の体の曲線をと見比べて、万里はほうと息を吐いた。
 ――あんなに。
 あんなに抱かれたあとなのに、幼馴染の体を見れば胎の奥がじわりと疼く。
 そういうふうになってしまった。
 そういうふうにされてしまった。
(不公平だよね)
 ひそかに唇を尖らせる。
 相手も同じように思っているとは夢にも思わない。
 見つめていると、不意に片桐がこちらを見た。いつも逆毛にセットしている彼が珍しく後ろへ撫でつけている。大人びたその顔にどきりとしながら訊ねた――なに?
「お前も、体を洗うだろう?」
 差し出された手のひらの意味は、推し量るまでもなかった。
 幼い頃から体に染みついている。やはり、そういうふうにされている。
 彼に手を差し伸べられれば、どんな状況でも手を取らずにはいられない。考えるより先に、もう手のひらを重ねていた。最初から最後までなにもかも知った顔で、掴んだ手を引き上げる――そんな片桐のまだ熱い体に飛びつきながら、万里はその耳元でいつものようにねだった。
「ねえ、浩くん。洗って?」






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