これに限っては連戦連勝なのだと言えば、お前らは意外そうな顔をするんだろう


「ねえ、浩くん。ちゅーして」
 幼馴染の要求はいつだって突拍子もない。
 たとえばそれが筋トレに付き合ってもらっている最中であったとしても、お構いなしだ。さすがに十年――いや。正確には十三年か。なんにせよ生きてきた年数の半分以上をともに過ごしていれば慣れもする。
 片桐浩二は至極冷静だった。件の幼馴染――相馬万里をまたぐ形で腕立てをしながら、顔色も変えず訊き返した。
「今、か?」
「今」
 即答。
「いや?」
「別に」
 嫌というわけではないが。
「シャワーを浴びてこようか」
「浩くんでもそういうの、気にするんだ?」
「お前、俺のことをなんだと思ってるんだ」
 いや、訊かなくてもなんとなく分かるような気はする。
 実際、万里もわざわざ答えるようなことはしなかった。
 代わりに囁いてくる。
「でもね、あのね、浩くん」
 幼い頃から慣れた、二人だけの内緒話の距離で。
「わたし、浩くんの汗の匂いが好きなの」
「やっぱり、シャワーを浴びてくる」
「なんで!」
 腕を折り曲げて、嘆く幼馴染の額に一度だけキスをした。一度だけだ。それ以上少しでも触れれば歯止めが利かなくなることは、経験上分かっていた。
「……キスだけじゃ済まないってことだろ。つまり」
 その意味を考えたのだろう――たっぷりと十秒。いや、数えていたわけでもないが。まあ、それくらいだ。多分。万里は傍目にも分かるほど顔を赤くして、体の下で叫んだ。
「こ、浩くんのえっち!」
「嫌ならキスだけでいい」
 狡い言い方だ。とはいえ、それもいつものことではある。返事を待つというよりは、どのタイミングで浴室に行こうかと考えながら、万里を見つめる。と、
「……いやじゃない」
 なるほどこれが経験値かとしみじみ思いながら。部活のことを思い出してしまうあたり自分は気が利かないのかもしれない。苦く笑って、唇を尖らせた万里の耳元で囁いた。
「お前が相手なら負ける気はしないな」







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