◇◇◇

 ――警視庁内、応接室。
 革張りのソファに寝転びながら、八雲は真っ黒な天井を見つめていた。今日という一日で、様々なことがあった。体は休息を欲しているが神経が昂って眠れそうにない。

(猛晴くんは、ちゃんと寝てるかな……)

 暗闇の中、なにをおいても仕事を優先させがちな叔父の顔を思い浮かべかけて――やめる。通話でのやり取りまで思い出して、会いたくなってしまいそうだった。代わりに、自分が巻き込まれた事件のことを考える。

(白崎のヤツ、なにに関わってたんだろ)

 あの刑事たちは事件の詳細を絶対に明かさないだろう。親切だが、職業意識も高そうだった。
 少なくとも八雲の目にはそう見える。

(山吹さんたちの言うように、わたしが気にすることじゃないのかもしれないけど……)

 それでも顔を知った相手の死に、ともすれば心が沈んだ。

(アイツにとって、仲間に殺されるかもしれない恐怖よりわたしへの恨みの方が強かったんだとしたら……)

 それは恐ろしいことだ。哀れでもある。たとえ白崎自身の選択が発端になっていたのだとしても。
 考えて、少し身震いをする。山吹か時雨が気を利かせてくれたのだろう、室内は快適な温度が保たれているが。
 不意に、ポケットに入れていた携帯電話が震えた。
 警視庁に着いてからすぐ捜査協力のため解析班に渡したが、白崎とやり取りした痕跡が見られないということで、すぐに戻ってきた。白崎どころか通話履歴もメッセージも叔父とのものしか残っていなかったため、最初は履歴の削除を疑われたようだ。当然復元したところでなにかが出てくるはずもなく、かえって気まずい思いをした。
 それはともかく。
 画面を確認する。SNSのDM受信通知だ。相手は、

「白崎……?」

 死者からのメッセージに、思わず二度見する。

「……そんなはずない。落ち着け、わたし」

 まるで死者からの報復に怯える殺人犯ではないか?
 自嘲しながら、深く息を吸う。冷静に考えれば、DMの送り主はすぐに分かった。白崎を殺した犯人だ。彼らは――あるいは彼女らは、か。白崎が自分に送ってきたメッセージの内容も知っていた。彼女のアカウントが乗っ取られていたとしても、不思議ではない。
 震える手でDMを開く。

-------------------------
【新規DM 一件】
――自分ばっか守られて、わたしのこと見捨てたくせに。
-------------------------

「……悪趣味すぎる」

 げんなりとして、額を押さえる。
 分かっている。これは死者からの恨み言などではなく、犯人からの揺さぶりだ。分かっている。分かっては、いる。だが、八雲の意思とは裏腹に動悸は激しくなっていた。

「猛晴くんだったら、こんなことで動揺しない」

 そう自分に言い聞かせ、両手で頬を叩く――
 静寂に乾いた音が響いた。それで思考もクリアになる。

「相手の目的は、最初から分かってる……」

 八雲を消すか、支配下に置くことだ。
 彼らは、白崎が八雲になにかを打ち明けたと信じている――実際は白崎どころか警察からも、事件について聞かされていないのだが。黒幕にとって、誘拐犯たちとともに八雲が警察に保護されてしまったのは痛手に違いなかった。

「だから、どうにかしてわたしを誘い出そうとしてる」

 そう結論づける。

(多分、相手は白崎とそんなに親しくない)

 白崎のメッセージを読んだだけの彼らは、八雲のことを親しい友人かなにかだと勘違いしているのだろう。良心に訴えかけてくる文面から、そんなことが読み取れた。

(だとしたら……なにかに利用できないかな)

 どんな形で利用するにしても、山吹たちに相談すべきだ。そんなことを考えているうちに、夜の気配は和らいでいった。




Next/TOP