随分な余裕じゃないか

「なあ、夜霧さん。ピアス開けねえの」
 形のいい耳をなぞりながら訊ねると、彼女は素っ気なく訊き返してきた。
「なぜ」
「なぜって、似合いそうじゃん」
 ――ひとつくらい、あんたの初めてをもらいたいんだ。そんな本音を喉の奥に戻して、薄い耳朶を指で摘まむ。と、彼女は振り払う代わりにやんわり手の甲に触れてきた。
「……悪い手だ」
 ほっそりした指先で、煽るように。ああ、やめてくれ。
「誘ってんの」
 上ずりそうになる声をどうにか抑えて、息を吐く。
「どうだろうな」
「なんだよ、それ」
「もっとマシな妬き方があるだろうという話だ」
 上目遣いに少し悪戯っぽく目を細めてみせる彼女は、嫌になるほど大人びていた。
 ――そういうところが好きなんだよな。
 敗北宣言も飲み込んで、耳朶にかじりつく。がり。
「君でなかったら、今この瞬間にもう殴り倒している」
 聞こえてきた呟きに、大川響鬼はいっそう深いため息を絞り出した――ほんと、あんたのそういうところだよ。






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