馬鹿は死んでも治らない

 ユナとの関係を説明するのは、どうにも難しい。
 同じ施設で育った友人では微妙に味気ないような気がするし、かといって家族というのはむず痒い。いわゆるイイ仲なのではと疑われることも少なくはないが、それだけはない、とビリー・カーンは断言する。結局のところ、妹分というのが近いのだろうか。歳は変わらないが。

 ***

「ビリーくん。わたし、影二と仲直りしたんだ」
「はあ」
 としか言いようがなく、ビリーは半眼で目の前のよく知った女を見つめた。幼い頃はもう少し金色に近かったような気がする髪の色は、銀色を通り越して今はすっかり灰色に変わってしまった。癖の強い灰色の髪が、実をいえばほんの少しだけ気に入らない。金髪だったら文句はなかった――と、歳の離れた実妹のリリィと彼女が並んでいるのを見るたびに思うビリーである。
「お前なあ……ついこの間、引きずってないって言ったばかりだったよな。深入りするなとも、言ったはずだぞ」
「深入りじゃなくて仲直りだよ」
 言い訳をする彼女の頭を、すぱんと平手で叩く。おがくずでも詰まっているのかと思いきや、意外といい音がした。
「痛っ!」
「痛っ、じゃねえよ。このポンコツ!」
「ひどいっ」
「大体、あの意地っぱりが仲直りだと? どうせお前が適当に濁してやって終わりにしたんだろ。そんなんだから、舐められんだぞ」
「いやでも、影二も悪かったって言ってくれたし」
「あいつも悪かったっつうか、どう考えても十割あいつが悪かったんだろうが」
 一息で捲し立てて――溜息も出ない。
(そういや、こういうやつだった……)
 代わりに舌打ちをすると、ビリーは眉間のあたりを軽く指で押さえた。すっかり忘れていた――というのは、甘ちゃんだった子供時代に終わりを告げてユナもそれなりに大人になったように見えていたからだ。養護施設から卒業することになった際、真っ先に一人暮らしを決めたのはユナだった。ビリーは結局妹のリリィをひとりにできず新しい部屋に連れて行ったし、あのハインですら昔から仲が良かった友人たちとのルームシェアに落ち着いたと聞いている。
(それが、なんで如月の話になると馬鹿になっちまうんだろうな)
 酷く苦い心地で、ちらりと教室の窓際を見る。一番後ろが影二の席だ。
 以前はしょっちゅう窓の外に広がる空ばかりを見ていたような気がする影二は、今はユナの様子を気にしているようだ。ビリーと目が合うと、露骨に顔をしかめた。
(……八年も子供の喧嘩を引っ張った意地っ張りが、随分な態度じゃねえか)
 久々に幼稚園時代を思い出して、ビリーは思わず毒づいた。
「仲直りしたら、いきなり全部元通りってか」
「どうしたの、ビリーくん。ああ、影二!」
 視線の先に気付いたユナが、ひらひらと手を振る。影二は手を振り返してこないまでも、多少なり機嫌を直したようだ。唇の端を少しつり上げ、けれど無関心を装うようにふいとそっぽを向いたのだった。
「馬鹿」
 やはり他に言いようもなく、ビリーはもう一度ユナの頭を小突いた。
 
 




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