09

 ――九月某日、サウスタウンベイ。
 空は青く晴れていた。気が塞ぎそうになるほどの快晴だった。サウスタウンエアポートの上空で一機のヘリコプターがホバリングしている。
「急げ。やつを取り逃がすぞ」
 ビリー・カーンは操縦席に着陸を急かしつつ、訊ねた。
「尾行班! やつを捕捉しているか?」
 ヘッドセット越しに声が返ってくる。ゲーニッツの尾行を任せていた部下のひとりだ。
「ビリー様。やつは間もなくゲートを抜けます。エアプレインに乗られたら手が出せなくなりますよ。ここでやつを押さえます!」
「分かった。オレもあと五分でそこへ行く」
 ヘリコプターの静止を待たずに飛び降り、勢いよく走り出す。同乗していた部下が慌てて追ってくる気配を背後に感じたが、改めて命令する手間は惜しんだ。エアポートは常に、人でごった返している。サウスタウンを訪れた人もいれば、旅立つ人も。とはいえ、そんな場所でもほとんど人の目が届かない場所というのはある。それこそ災害時でもなければ使うことのない避難用通路。そこにゲーニッツを誘導する手はずになってはいる。おそらく騒ぎになることはない。ないはずだ――が、胸騒ぎがするのはなぜだ。
 奇妙な不安に、走る速度も自然と上がる。なにも知らない搭乗客たちとすれ違うたび、怪訝な顔をされるほどに。けれど構っている場合でもない。走って、走って、走って。
 ようやく見えた。誘導灯の点いた分厚い金属製のドアを勢いよく開く。と、
 通路に――
 人の気配はなかった。生きた人の気配は。
「うわぁ……たった二、三分でこんなことが……」
 追いついてきた部下が、それを見て愕然と呟いた。荒事に慣れた大の男が顔色を失うほどの惨状だった。まさしく血の海だった。動脈だけ綺麗に裂かれているためか遺体に損傷は少ないが、それだけに異様な光景だった。
 先行していた部下たちはひとりとして例外なく事切れている。
「くそぉ、オレのミスだ」
 ビリーはうめいた。
 ゲーニッツを舐めていたつもりはないが、前の失態――ルガールの秘書たちに奇襲を許したことだ――を取り戻すために、焦った自覚はあった。その結果がこれだ。名誉を挽回するどころか部下の多くを失って、こうして途方に暮れている。
「ビリー様、あれは……」
 震える声に視線を上げれば、死に彩られた風景の中に風船がぽつんと浮かんでいた。どうして気付かなかったのか。訝りつつもよく見ると、そこには血で文字が書かれている。
 ――RETURN
「…………」
 威嚇ではない。それは単純な警告だった。ぞっとするというよりは怒りを覚えて、拳を握りしめる。反面で、そのまま相手を追うべきでないことも分かっていた。部下を殺されてなお冷静な自分に苛立ちながら、携帯電話からギースの番号にかける。
 淡々と経緯のみを報告するビリーに、ギースからの叱責はなかった。代わりに部下の死を悼む言葉もなく、ただ思案する雰囲気だけが伝わってくる――
「RETURN……手を引けというやつからのメッセージか」
「やつを追います! 部下の仇をうってきます!」
 彼が結論を出すより先に、ビリーは声を割り込ませた。
「これ以上、やつを追わなくていい」
「なぜです、ギース様!? オレにやつを殺らせてください!!」
 使うことのなかった棍を握りしめ、声に力を込める。が、
「これは命令だ、ビリー。やつの行動がはっきりした今、もうお前は手を引くのだ」
 冷ややかな声で言われてしまえば、もう食い下がるわけにもいかない。
「く…………分かりました」
 反論を苦いものとともに飲み下して、ビリーはどうにか頷いた。事務的な会話をひとつ、ふたつ交わしてギースとの通話を切る。酷い無力感に苛まれながら、それとは無関係に体は動いた――それも慣れだ。
「事後処理を済ませ、事を公にするな。任務は終了だ……」
 まだ顔色の戻らない部下に努めて平静に声をかけ、返事を待たず歩き出す。
 ――今からでもやつを追って、八つ裂きにしてやろうか。
 そんな誘惑がほんの少しでもちらつかなかったと言えば嘘になる。けれど、ビリーは自分にそれができないことも分かっていた。カッとなって鉄パイプを振り回していた十代の頃とは違う。激情という名の獣は理性の檻に閉じ込めた。そこに忠誠という名の鍵を掛けてからは、いっそう組織に馴染んでしまった。苛立ちを呑み込む術を覚えたし、怒りに身を任せるより先に思索することも増えた。
(ああ、まったく。随分と丸くなったもんだなァ、ビリー・カーン!)
 誰より自分自身に腹を立て、三節棍を乱暴に折りたたむ。
「……ついにやつは日本へ……草薙と八神を滅するために……なのにオレは……」
 こういうとき、どうしようもなくあの格闘大会が恋しくなる。ザ・キング・オブ・ファイターズ95’大会。ギースの命令を受けての参戦ではあったが、闘いのさなかはなにも考えずにいられた。任務のことも、自らが負うようになった責任のことも、部下のことも。
 嘆きつつ、やはりどこか冷静に――思い出したのは日本に残してきた部下のことだった。草薙と八神、そしてオロチにまつわる因縁を報告してきたのも彼女だったか――
「……如月のやつはともかく、あいつのことをどうしたもんか」
 あるいは、どうしようもないのかもしれないが。
 苦いものを噛みつぶすようにひとりごちて、ビリーはそっと溜息を零した。

 ***

「文化祭、ねえ」
 テーブルの上に投げられたチラシをちらりと見て、ユナは眉をひそめた。京の母親――草薙静と会った際に渡された。見れば文化祭の案内で、日付は十日後になっている。目玉はアイドルの麻宮アテナ率いるバンドの演奏らしく、京も出るので時間があるなら見に行ってやってくれという話だった。
「そんなことしてる場合なのカナ?」
「と、お前が言うのも珍しい」
 呟くユナに答えたのは影二だ。ベッドの上で胡座を掻いて、念入りに小刀の手入れをしている。そんな彼を、ユナは振り返った。あの雨の日からおよそ半月。影二の態度はほとんど変わりがないように見える――あんな、まるで。
(期待持たせるようなこと、言って)
 なんとなく口元に手をやったのは、影二の言葉を思い出してしまったからだった。彼の唇がそこに触れたわけではなかったが、そうと錯覚せずにはいられない距離だった。
 会話に間が空いたせいだろう。怪訝な視線を感じて、ユナは頭を振った。
「だって、さすがに落ち着かないよ。最近はビリー様との定期連絡もおぼつかないし……サウスタウンで片が付くなら、それに越したことはないけど」
 それもまあ、建前というわけでもない。潜伏していたゲーニッツの目撃情報がハワード・コネクションの情報網にようやく引っかかったため、ビリーは追跡と更なる情報収集に追われている。差し迫ってもいない報告を聞いている暇もないという話で、ここ数日はユナも電話連絡を控えてメールを送るのみに留めていた。
 影二も頷く。
「確かに。お前にとっては、サウスタウンで片が付いた方がよいか」
「でも、影二はゲーニッツと戦いたいんじゃなかった?」
 不思議に思って訊き返すと、彼は不本意そうな顔でぼそりと呟いた。
「やつが日本に来るとすれば、ビリーがしくじったときだろう」
「まあ、そうなんだろうけど――」
 相槌を打って、はたと気付く。
「もしかして、気にしてくれてたりする?」
「誰がビリーのことなど」
「じゃなくてさ。わたしのこと」
 こういう言い方はまた嫌がられるかなと思いつつ。ちらりと影二を見ると、彼は鼻の頭に皺を寄せた。そのまま唸り声でも上げかねない様子だったのだが、
「気にしてはいけない理由もなかろう」
 雰囲気に反して落ち着いた声音で言って、ふいとそっぽを向く。
「そっか、嬉しいな」
 それは言葉にすべきではなかったのかもしれない。嵐の前のやり取りとしては、どうにも浮かれている。文化祭の準備に勤しむ高校生たちを責められないなと思いながら、ユナはかるくかぶりを振った。それで一度吐き出した言葉を喉の奥に戻せる、というわけでもないが。
 影二の方も聞かなかったふりをしたようだった。何事もなかった顔で、続けてくる。
「ともかく、今は“とき”が来るのを待つしかあるまい」
「そうだね」
 いくらかの不吉な予感とともに頷いて、ユナはそろりと腰に手をやった。ベルトのホルダーにはいつもと変わらず、特殊警棒が一本差してある。元よりユナの技量ではチンピラ相手の立ち回りにしか使えないような代物だが、決戦を前にしてはいっそう心許ない。
「このあたりに銃器の調達を頼まれてくれそうなブローカーっているかな?」
 訊ねると、影二はぴくりと眉を上げた。
「ビリーから、日本では撃つなと言われているのではなかったか?」
「無闇に撃つ気はないけど、警棒一本でどうこうできるような相手じゃないし」
「拳銃ならどうにかなるというものでもなかろうが……まあ、心当たりはないこともない」
 来るべき瞬間に備えた会話というのは、それで終わりだった。ビリーの傍にいた頃は、もっと事細かに打ち合わせをして獲物を追い詰める算段を立てたものだったが。
「大丈夫、かな?」
 なんとなく落ち着かず、訊ねる。影二は、なにがとは訊き返してこなかった。
 代わりに、
「ああ」
 と、相槌をひとつ。相変わらずの傲慢だ。だがまったく根拠がないわけでもない。才能と努力に裏付けされた彼の自信を、ユナは眩しく思う。
「影二が言うなら、そうなんだろうね」
 そう呟いて、ユナはまとわりつく不安を振り払うように何度か首を振った。

 ビリーからの連絡を待って、一週間ほどが過ぎた。
 その間を、まったく無為に過ごしたというわけではなかった。影二の伝手を頼って拳銃と予備の弾丸は手に入れたし、京や庵の監視も継続していた。とはいえ、当の彼らはぎりぎりまでバンドの練習に当てるつもりなのか、特別ゲーニッツに備えている様子もない。
 柴舟の動向まで掴もうとすると二手に別れなればならなかったため、影二と顔を合わせることも自然と減った。それでも夕食のひとときだけは――一日の報告も兼ねて――欠かさなかったが、その時間も以前に比べると大分短くなってはいた。
「八神はどうだ?」
「京たちと同じだよ。相変わらずバンドの練習。どういうわけか、ルガールの秘書たちと組むみたい。こんなときじゃなかったら、平和だねなんて言えたんだけど」
 互いの報告が終わる頃には、食器もあらかた空になっている。その程度の簡単な食事を終え、片付けのために立ち上がった影二にユナは思わず声をかけた。
「あのさ、影二」
 返事もなくただ振り返ってくる彼に、訊ねる。
「今夜も、このまま帰るの? ああ、いや、深い意味があるわけじゃなくて、どこで休んでるのかなって。その、今日は遅いし、こういうときだからこそ休息も必要だったり……しない?」
 一笑に付されるかと思ったが、意外にも影二は少し考えるようなそぶりをしてみせた。
「確かにここのところは木の上で休むばかりだった。今宵は泊めてもらうとするか」
 それがなんとなく言い訳じみていたのは、おそらく気のせいではないのだろう――言ったあとで影二はばつが悪そうな顔をして、ふいっとそっぽを向いたのだった。
「宿代代わりにオレが片付けておいてやる。お前は先に、風呂に入れ」
「えっ、そんなのいいのに」
「一方的に世話を焼かれるのは性に合わぬ」
「普段、散々ビリー様から面倒を押しつけられたって言ってるのに、そこでわたしに借りを返させようとしないところが影二だよね。律儀っていうか、なんていうか……」
「黙れ」
 図星だったのか、片手で着替えとともに浴室に押し込まれてしまった。
 ユニットバスでこそないものの、単身者向けアパートなので浴槽はそれなりに狭い。どうやっても足を伸ばすことはできないバスタブの中で膝を抱えながら、ユナはぼんやりと天井を見上げた。ドアを一枚隔てた向こう側に人の気配があるというのは、くすぐったいような心地がする――というのも、大概緊張感に欠けるのだろうが。
(悪くないよね、こういうの)
 声には出さず、ユナは指先でちゃぷんと湯を弾いた。跳ねた湯が湯煙を割って再びバスタブに落ちるのを眺めながら、とりとめもなく考える。
(たとえば、たとえばだよ。なにもかも決着が付いたとしたらさ、またこんなふうに一緒にご飯を食べて、後片付けして、お風呂に入って、寝るまでのちょっとした時間で意味があることやないこといろいろ話したりして、寝て起きて朝一番に影二の顔見ておはよって言って……そういうのがたまの特別じゃなくて当たり前になったら……それはきっとすごく幸せなことなんじゃないかな)
 影二が嫌がらなかったとして、だけど。
 これは小声で呟いて――ユナを甘い妄想から現実に引き戻したのは、聞き慣れた呼び出し音だった。それはワンコールで途切れたが、ほとんど反射的に立ち上がり、バスタオルを一枚巻いて浴室から飛び出す。
 ぎょっとしたような影二と目が合った。
「電話……」
「ああ、ビリーだ」
 と言ってから、こちらの視線に気付いたらしい。
「このタイミングでのビリーからの用件、気になったのでな。取らせてもらった」
「それは別にいいけど……」
「このまま話は聞いてやるから風呂場に戻れ」
 しっしと追い払う手つきで、影二。
「え、でも」
「オレとて男だ。バスタオル一枚で目の前をうろつかれるのは落ち着かん」
 と言われてしまえば、そういうものなのかなという気もしてくる。
「ビリー様、いいですか?」
 念のため携帯電話に向かって声をかけると、ビリーもあっさり応じた。皮肉のひとつくらいは覚悟していたが、それもない。安堵するというよりは腑に落ちない心地で浴室へ戻る。ドアを閉めてしまえば――樹脂パネルをはめただけの安っぽい開き戸でも――会話はほとんど聞こえない。
 とはいえ湯船に浸かり直す気にもなれず、ユナはいつものワイシャツに着替えた。急いだせいか、まだしっとり濡れていた肌に服が張り付く。その不快感に少しだけ顔をしかめながら、髪を手で絞って適当にまとめる。が、
「お待たせ……って、あれ?」
 再び浴室から出たときにはもう、彼らの通話は終わっていた。
「早くない?」
「近況報告程度、長引かせるようなものでもあるまい」
「そりゃそうなんだろうけど」
 ソファに投げ出された携帯電話をつまみ上げ、通話履歴を確認する。二分半。近況報告程度にしても、随分と短い。
「話、なんだった?」
「明日、サウスタウンの空港にゲーニッツが現れるという情報を得たらしい。万一取り逃がしたときにはこちらで対処が必要だが、逆を言えば少なくとも明後日までこちらでできることはない。精々鋭気を養っておけ――と、そんなところだ」
「ふうん、そっか……」
 拍子抜けして、ユナはソファに座り込んだ。風呂に入ったばかりだというのに、首の付け根がじっとりと汗ばんでいる。
「なんか嫌な汗掻いちゃった。なにもなさそうなら、今晩は部屋着に着替えよっかな」
「ああ。オレも湯を借りよう」
「うん、ドーゾ」
 影二の後ろ姿が浴室に消えるのを見送って、ふっと息を吐く。しばらくすると、浴室の床を打つシャワーの音が聞こえてきた。そのことになんとなく安堵し、目を瞑る。
 影二の残り香だろうか。いいや。鼻腔から入って神経をゆるめる、妙に甘い香りだった。
(影二が出てくる前に着替えないと……)
 そう思いつつ、一度下ろした目蓋を持ち上げるのはどうしてか酷く億劫だ。ビリーから連絡がなかったことに、自分でも思っていたより気を揉んでいたのかもしれない。ゆったりと沈んでいく意識をどうすることもできず、ただ水の流れる音が止むのと慣れた気配だけは夢心地に感じていた。ユナ、と呼ぶ――ビリーのものとは違う――声も。
(なんでだろうね。ビリー様とか、同僚とか、京たちに呼ばれるのとは全然違うんだよ)
 それを声に出せたのか、出せなかったのかは自分でもよく分からなかった。
「いいから休め」
 心地のよい声が、目蓋の上から撫でていくあたたかい掌が、そう促す。
(だって、だってさ、勿体ないじゃん。影二がいるのに、寝てるのは……すごく……)
 このとき目を覚ましていたら多少なりとも違っていたのだろうか。後悔というのは、どうあっても常にそういうものであるというだけの話なのかもしれないが。
 ともあれユナが目を覚ましたのは、生ぬるい風を頬に感じたからだった。はっと目を開ける。最初に目に入ったのは薄く開いたベランダの窓で、風に吹かれたカーテンがゆらゆらと揺れていた。
「影二?」
 部屋の中に彼の気配はない。時計の針は十二時を跨いで、二時を指している。外の空気を吸いにふらりと出かけていくような時間でもない。
 はっきりと目が覚めたときにはもう、体は動いていた。ホルスターと携帯電話を掴み、爪先に靴を引っかけて部屋の外へ飛び出す。アパートの階段を転がるように駆け下りて、駅に向かって駆けながら――電車はもう止まっている時間だが、タクシーくらいなら掴まる――携帯でビリーの番号を呼び出した。
 捕縛作戦前ならおそらく留守電になっていたのだろうが、
「どうした、ユナ。こっちは忙し――」
 予想通り、ほとんど間を置かず繋がった。
 不機嫌そうなビリーの声に、ユナは食い気味で訊ねた。
「ビリー様! ゲーニッツはもうサウスタウンを発っていたんですね?」
 すっと息を呑む気配が伝わってくる。
「お前、今どこだ? 如月は」
「どこって、たった今部屋を出たばっかりなんですけど! わたし、迂闊で……っていうか、現実逃避してたのかも。嫌な予感、気付かないふりして、いつもみたいにしてたらなにも起きないってそんなはずないのに――さっきの電話、もし影二が出なかったらビリー様はわたしになにを言うつもりだったんですか?」
「なにって、任務は終了だと伝えるように言ったはずだぞ。如月に!」
「聞いてません!」
「昨日、ゲーニッツの捕縛作戦を決行した。エアポートでやつを追い詰めた部下たちは殺され、ギース様が深追い不要とおっしゃった。お前は如月に付き合いたがるだろうが、そのあたりは適当になだめて関わらせるなと……ああ、なるほど。あの野郎、手間を惜しみやがったな」
 ひとりで納得して、短く告げてくる。
「引き返せ」
「………」
「ユナ・ナンシィ・オーエン!」
「無理です!」
 ユナが即答すると、携帯からは怒鳴り声――もしくは悲鳴か――が、聞こえてきた。
「お前が行ったって仕方ねえだろうが!」
「分かってますけど、だからって部屋に戻って寝直しますなんてできるはずないじゃないですか。そんなの、死んだ同僚にも顔向けできませんし……」
「それこそ生きてるやつの自己満足だからな。おい、上司の命令を聞け!」
「ごめんなさい、ビリー様」
 一方的に通話を終了して、ユナはぷつりと電源を落とした。
  




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