ままごとと呼ぶには本気が過ぎる

「おじさん、ひき肉を六百グラム」
 手提げ鞄から赤と黒の財布を取り出した従姉――夜霧が、慣れた調子で告げる。
 看板に描かれた牛よりもなお四角い顔をした精肉屋の主人は、こちらもやはり慣れたように秤へひき肉を載せて「少しまけておいてやるよ」と笑った。手際よく包まれた紙パックを受け取るのは、照英の役目だ。
「今日の夕飯は?」
 夜霧に釣銭を渡しながら、精肉屋の主人が訊ねてくる。
「餃子とチャーハン。これから、二人で包む」
 照英は答えた。部活の帰りに二人で待ち合わせて、夜霧と二人で買い物をする。共働きの両親に代わって二人で夕食を作るようになったのは、いつの頃からだったか。
「相変わらず仲睦まじいな、お前たち二人は。まるで……」
 一瞬だけ言い淀んだ彼は、顔に空笑いのようなものを浮かべるとそっと息を吐いた。
「まるで、本物の姉弟だ」
 ――は。もっと別のことを言おうとしたくせに。
 鼻を鳴らす仕草で大人の欺瞞を嘲笑って、夜霧の肩を抱く。俯く従姉はなにも言わない。けれどその耳がほんのり赤く染まっていることは、照英だけが知っていた。






TOP