キスの日

「ねえ、影二」
　――キスしてよ。
　ユナがそう告げてくるより先に、口付けた。
　ねだった形のまま硬直している彼女の間抜けさといったら。その青い目に映る己の酷く楽しそうなことといったら。笑ってやればいいのか不機嫌なふりをしてみせればいいのかも分からなくなってしまって、誤魔化すようにもう一度距離を詰める。
「わたしね、影二とのキスも、好き」
「そうか」
　他に言いようもなく頷いて、額にひとつ。鼻先にひとつ。
　そのたびに喉の奥から零れる悲鳴じみた甘い音を聞きながら、もう焦らしているのか焦らされているのかも分からない――だから、拙者は好きではないのだ。ひそりと口の中で呟いた。苦味ごと舌に載せてユナの唇に吹き込んだ。と、いうのに。
　ああ、嬉しそうにはにかむ彼女のいっそう甘いこと。
　顔をしかめる気力もなくして、影二はそっと溜息を吐いた。
「こういうの、嫌い？」
　もういい加減に慣れてくれてもいいだろうに、瞳をわずかに曇らせる彼女に答える。
「嫌いではない……嫌いではないから、酷く癪に障る」