時空の穴に落ちた話

 ええい、お前ときたら!
 拙者ならばどれでも良いのか。そんなことはない?
 ならば他の拙者に気を持たせるようなことは言うな。「だって、影二はこういうの別になんとも思わないでしょ?」――いや、それに関しては確かに拙者も悪い。悪いが……うぐ、日頃の行いのツケがこんなところで回ってくるとは。
 

時空の穴に落ちた話2

 ――別の世界の拙者が選んだ女のことを知りたいと思って、なにが悪い。
 なんて。前にも別の影二から聞いたことあるよ、その台詞。そういうとこ相も変わらずっていうか、自分にさえ勝たなきゃ気が済まないようなとこどうかと思う――ナンデって、トロフィー扱いはチョット寂しいじゃん。わたしは影二のこと手放しで大好きなのにさ!
 

負けたとは言わぬが

 好きになった方が負けだって言うじゃん?
 ほんと、そう。わたしの負け。大負け。恋愛ですら勝ちを譲らない、影二のそういうところもどうしようもなく好き。仕方ないよ。
 そんなふうに笑ったら、彼は少しだけ心外そうな顔をして耳元で囁いてきたんだ。
「拙者とて、完勝には程遠い」

 ねえ、この曲いいよね。
 なんて隣を見上げた瞬間、思ったよりもずっと近い位置で目があった。
 え、あ、なに。
 ああ、さっきまで聴こえてた音がやけに遠いなって思ったら、イヤホン、いつの間にか外れて、じっと見つめてくる影二の唇の端に見覚えのある色のカラーリップ――
「付いてる、よ」
 やっとのことでそれだけ告げた。

いい加減慣れろ

 なぜこのタイミングで。
 今まさに唇を重ねようとした、その瞬間に空気をぶち壊した彼女をじとりと睨む。
「緊張すると、なんか喋らなきゃって思っちゃって。つい」
「なにを今さら」
 ――初めてというわけでもあるまいに。お前の悪い癖だ。
 もう一言二言付け加えようとしたところで、ならば説教じみているのは拙者の悪癖かと気付いて、溜息をひとつ。

我慢比べ

「影二」
 なにかをねだるように目を閉じる彼女の顔を見つめたまま、さて何秒耐えられることかと胸のうちで数を数えた。痺れを切らせて目を開けた、その瞬間にこそ望むものをくれてやろうと。

それは確かに幸せなのだろう

「影二、ハッピーバースデイ! これは誕生日プレゼント。クリスマスのプレゼントは起きてからのお楽しみね。おっきなもみの木用意したから、きっとサンタさんがたくさん持ってきてくれるよ」
 と、彼女が悪戯っぽく笑う。クローゼットの中にプレゼントをぱんぱんに詰め込んでいることは知っているぞと、余計な一言は飲み込んだ。
 

参ったは聞かぬぞ

 最近彼女の書棚に本が増えた。また忍びを曲解したアメコミかと思いきや今度は山田風太郎ときたものだ。挙句付け焼刃の忍法勝負だと。まったく笑わせる。
 くのいちの真似事をするには色香が足りぬなと言ってやれば、拗ねた顔をして「わたしだって本気出したらすごいんだから」と。ならば、その本気とやら見せてもらおうか。




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