死亡フラグを立てるな

「サウスタウンでの任務でしばらく会えないからさ、写真撮ろうよ」
「御免被る」
 インスタントカメラを取り出したユナの顔を、如月影二は即座に押し返した。掌の下からくぐもったブーイングが聞こえてくる。
「ナンデ。減るものでもあるまいし」
 お前の寿命が減りそうなのだとは、言葉にするのも癪だったが。
「拙者の顔が見たくなったら帰ってくればよいだけの話だ」
 抗議の形に尖ったその唇を指先で摘まんで、本音をひとつ。
 

そういうところ

「影二、会いたいなあ」
 なんて言ってみたところでさ、向こうは日本。こっちはサウスタウン。困らせるだけだって分かってるよ。ほら、案の定。電話の向こうの影二も無言になっちゃって。
「なんて」
 ごめんね。ごめん。少し笑って冗談に変えようと思ったらさ、後ろから聞き覚えのある笑い声が聞こえてきたんだ。ちょっと意地悪な。え、あ、なんで。
「生憎、短気なものでな」
「ああ、もう、大好き!」

塩気が強すぎる

「やっすいハンバーガーショップのさ、このポテトの味。なんだろね、たまに食べたくなるの」
「理解しかねる」
 としか言いようがなく。けれど大真面目に悩んでいるユナを見ていたら、少しくらい思索に付き合ってやってもよいかという心地になったのだ。その指先につままれた細い、細すぎるポテトフライを一本。指ごとぱくりと口に含む。
「ね、たまにはいいでしょ」
 同意を求めて見上げてくる彼女に、頷く代わりに口付けを落とした。どうせ指先と同じ味ならば、こちらの方がよかろうと。

センスがない

 ねえ、影二。そろそろ公共の場で褌ってやめよ。え、余計な世話だって?
 まあそう言わずに。こんなこともあろうかと、わたし水着用意してきたんだから。見て、忍者柄のトランクスタイプ!
 可愛いでしょってちょっと! なんでいきなり破くの!!
 地味に高かったんだってば!!
 もー!!

お前のすべては

 着替えているユナの背中をぼんやり眺めていたら、肩甲骨のあたりに傷痕を見つけた。
 ああ、あのときの。思い出し、なんとはなしに手を伸ばして触れる。由来の分かる傷をひとつ、ふたつと口の中で数えながら。その肩が微かに震えたことには気づかないふりをした。耳の縁が赤く熱を帯びていることにも。
「拙者も、ひとつ付けたくなる」
 柔らかな腰のあたりにそっと爪を立てる。これ以上は困る、と呟く彼女の声はやはり無視して。

同じハワコネアイコンなので

 既読の付いた画面を眺めつつ、返信はない。まだ彼女は怒っているのかといくらか途方に暮れた心地で、さらにもう一言二言。約束を反故にしたことに対する謝罪と言い訳――はあまりに無様かと思い直して、なるべく早く切り上げて埋め合わせする旨と、ついでに恋人らしい言葉を付け加え送信する。ポンと音が鳴って、今度はすぐにメッセージを受信した。

 ――送信先をよく見ろ、馬鹿。

横恋慕

「あの子、可愛かったね」
 なんとなく気にした様子で前髪を掻き上げている彼女に、苦笑いをひとつ。まったく素直なのかそうでないのか分からんな、と自分のことを棚に上げながら手の中の恋文を細かく裂いた。桜の花びらとともに舞っていく紙吹雪を視線で追うことはせず、一言囁く――お前だけだ。

星に願う

 給料が下がりませんように。
 七夕飾りに、そんな色気のない願い事を書いたユナをじとりと睨む。別に分かりやすく愛を書き綴ってほしかったわけでは――断じてないが。視線に気づいた彼女は言い訳をするように「怖いんだよ」と苦笑してみせた。なにが。訊き返す拙者に、ただ一言。
 目に見える形で願ったら、叶わなくなっちゃいそうで――と。




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