彼の言い分

 言い訳が許されるのならば、若干正気ではなかった。
 彼女が任務でサウスタウンへ旅立って、三ヶ月。三ヶ月程度で我慢が効かなくなるというのも情けない話ではあるが、その日はどうにも恋しくなってしまった。己の方が修行と称して音信不通にした前科もあるだけに、国際電話をかけることも躊躇われ――というのも、また言い訳になるのだろうが。

「くっ、ふ……」
 薄い布越しに、屹立した陽物を擦り上げる。勝手知ったる己の体といえども、してもらうことに慣れてしまった今となっては物足りなさを覚えないこともない。ユナ。声には出さず、名を呼んだ。
 ああ。まったく。なんて体たらくだ。
 オレは今、こんなにもお前の声が聞きたい。
 ――夢心地の中「えいじ」と呼ぶ、舌足らずなお前の可愛いことといったら。
 オレは今、こんなにもお前の手が恋しい。
 ――突き上げられながらも離れぬようにと背中を抱く、必死なお前の愛おしいことといったら。
 記憶の中にある彼女の感触と乱れる様を思い浮かべ、手を上下に動かし続けると当然その瞬間はやってくる。たとえ彼女が目の前にいなくとも。少なからず罪悪感のようなものを覚えつつも、影二は素直に吐精した。それが溜まっていた欲のすべてというわけでもないが、まあ出してしまえばいくらかは冷静になる。手の中の不快感に顔をしかめながら、べっとり濡れた彼女の下着を見て――はじめて、これはまずいと思ったのだ。

 要は、恋しさ余って彼女の下着で致してしまったという話でしかない。
「あのさあ、影二」
「言いたいことは分かる」
 だからそんな目で見るな、と先に釘を刺す。ユナは納得いかない顔をしていたが、それでも何度か瞬きをして怒りを呑み込んだ(ように見えた)
「じゃあなにも言わないけど、だからって捨てなくてもいいじゃん。洗ってよ」
「忍びは女の下着など洗わん」
「それほんっと都合のいい言葉だよね?!」




TOP