お前がいい

 目が合うとユナは少し笑って、右と左それぞれの手に持った服を少しだけ掲げてみせた。どっちが似合うかな。人の多い店内で少し不自然なほど声をひそめて訊ねてくる。まるで服を選ぶという行為そのものを恥じているようだと感じて、影二は軽くかぶりを振った。
「どちらでも」
 然程変わらん。
 と、言ってから言葉足らずだったかと気付いた。目の前でユナはすっかりしょげかえって、背中にかかった灰色の長い襟足も心なしか力なく項垂れて見える。
(まったく)
 溜息をひとつ。呑みきれずに零すと、影二はユナの方へずいと一歩踏み込んだ。ぎょっとする彼女の耳許で一言。それを言葉にすることへの腹立たしさがないではなかったが。
「どちらかなどと詰まらぬことを。お前ならばどれであれ似合わぬことはなかろうに」
 その顔が遅れて熱を帯びていくのも、まあいつものことではある。でもさ、影二に選んでもらいたかったんだよ。と、てれてれ呟いている彼女から離れて適当なシャツを一枚投げてやりながら、影二は素っ気なく告げた。
「オレは、もうとうに選んだつもりであったのだがな」




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