目を覚ますまで

 詮のないことばかり言う唇も、眩しいくらいにキラキラと輝く瞳も、今は固く閉じられている。そうして一切の騒々しさが断たれてしまえば、残るのは死の気配を感じさせる陰鬱さばかりだ。額に落ちた前髪を掻き上げてやりながら、如月影二はそっと息を零した。色の薄い灰色の髪。これがよくないのかもしれない。素っ気ない黒のシャツ。これもよくないのかもしれない。鮮やかな世界で静かに色をなくしている彼女に、もう一度。今度は鼻筋に口付けをひとつ。それから上唇に――
「え、えい、えいじ?!」
 続けようとしたところで遮ってきたのは、ほかでもない彼女の声だ。そろりと視線を上げる。丸くなった青い目の鮮やかさと、上気した頬の赤さといったら!
 それですとんと落ち着いてしまって、影二は彼女の額を指で強めに弾いた。一度目で気付け、馬鹿者。と(自分でもあんまりないいざまだとは思ったが)言い捨て、さっと離れる。背後から聞こえてくる情けないぼやきが、どこか耳に心地良かった。




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