もう少し聴きたい

 鈍色の空から水滴が落ちてきて、地面を叩いた。途切れることなく響いている雨音に耳を傾けながら、如月影二はぼんやりと正面を眺めていた。向かいではユナがペンを片手に、聞き覚えのない曲をうろ覚えに口ずさんでいる。
 流行歌の類というよりは、童謡のようだ。
(ここで、歌詞が抜ける)
 何度か聞いているうちにすっかり覚えてしまって、歌詞が抜ける直前で無意識に指先でテーブルを叩いた。然程大きな音ではなかったものの、歌声とも雨音とも違うそれに気付いてユナがぷつりと歌うのをやめる。
「うるさかった?」
 ごめんね、と申し訳なさそうな顔をした彼女に、影二は小さくかぶりを降った。
(いいや。もう少し聴いていたかった――)
 などと言えるはずもなかったが。




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