夏の空に君を見て

 指の間から頭上を仰ぐ。 強すぎる夏の陽射しに、けれど顔をしかめきれなかったのは青く透きとおった空が彼女の瞳の色と同じだったからだ。
(とは、とても本人には言えぬな)
 思い出してわずかに目を細めると、如月影二は視線を伏せた。茹だるような暑さに響く蝉の声も、どこか遠い。まるで世界から切り離されたような、そんな感覚が影二は嫌いではない。煩雑ななにもかもから解放されて、ただただおのれの力を高めているような、そんな心地になれる――とはいえ長くそうしていられたわけでもなかったが。
「影二〜! えいじ! まだ修行してる? それとももう休憩? ご飯持ってきたよ……!」
 静寂を砕く無遠慮な声だ。一方で不快ではない。 忌々しいことに。声の主は、ぼんやりとした影二の腰あたりに勢いよく飛び付いてきたのだった。
 ――ユ、ナ
 途切れ途切れに名前を呼んで、我に返る。
「離れぬか……」
 うんざりと額を押さえ――汗をたっぷり吸った忍装束のことも多少気にしつつ、影二は呻いた。
「一分だけ!」
 すんすんと鼻を鳴らしながら、にっこり見上げてくる。その空と同じ色の瞳の中には、しかし太陽だけは見当たらないというのに。
(ああ、チカチカと眩しくて敵わん)




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