苦い酒

 ――誰だ、こいつに酒飲ませたのは。
 その一声でそれなりに賑わっていた酒場は水を打ったように静まりかえった。問い詰め方がまずかったことを自覚しながら、ビリー・カーンは密かに嘆息した。
(びびらせるつもりはなかったんだが)
 少し前――それがどれくらい前になるのかは自分でももう分からなかったが――ともかく、ほんの少し前までは、こうではなかったような気もする。恐縮だけが返ってくる反応のすべてというわけではなかったし、まして酒の席ともなれば文句でもあるのかと食ってかかって来た者もいないではなかった。そこから始まる乱闘も今となっては懐かしい。
 なんとなくしみじみしてしまった自分を自覚して、ビリーはかぶりを振った。
「別に説教しようってんじゃねえよ。てめえらもオレの部下なら、この程度で一々固まってんな。みっともねえ」
 軽めの悪態を投げて、酔いつぶれた部下のひとり――ユナ・ナンシィ・オーエンだ。つまりは――を抱え上げる。その瞬間に少しだけ顔を顰めてしまったのは、力の抜けきった体の奇妙な柔らかさと重みがビリーに死体を連想させたからだった。




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