雨の日に

 ぼんやりと、窓の外を眺めていたのだ。鈍色の空には分厚い雲が広がって、今にも降り出しそうな気配を見せている。妙に肌寒いと思った。苦い心地で両腕をさすりながら無意識に思い出すのはサウスタウンの路地裏だった。
「ユナ」
 呼ぶ声に、ユナは二度瞬きをした。灰色の路地裏が、明るい室内に変わる。なんとなく胸を撫でおろしながら窓ガラス越しに背後を見ると、すぐ後ろに如月流の忍びが佇んでいた。彼は少し優しげな顔をしていたが、目が合うといつものように眉間に皺を寄せてみせた。
「カーテンを閉めぬか。冷える」
「ああ、ごめん」
 言われるままにカーテンを引いてしまえば、外の風景とともに過日の疼痛も掻き消える。
 肩をすくめ、ユナは影二を振り返った。
「それにしても珍しいよね。影二が冷える、なんて」
「そういう日もある」
 そういうものなのだろうか。 腑に落ちない心地で見つめると、影二は不機嫌そうに唸った。日頃は鈍いくせに妙なことばかり気にするやつだなと毒づきながら、ソファの方へ戻っていく。
 それからスプリングが悲鳴を上げるほど乱暴に腰を下ろし、
「......サウスタウンのことなど、忘れれば良い」
 忌々しそうに小声で、一言。




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